リチャード H モリタブログ
2007.01.15 最初の一行
12日のブログを書き終えたあと、やっと最初の一行が書けました。ちょっと長めのブログ文になりますが冒頭だけ紹介します
「――結局、自分が幸せでなければ子どもを幸せにすることはできない」と、深夜、斉藤愛子は何か結論めいたひらめきに心を奪われた。自分の苛立ちを、夫のせいにすることも、仕事のせいにすることも、そして、自分を責めることも、もう止めにしよう。愛されたい、相手に理解して欲しいと、犠牲心を抱いたり、見返りを求めて人に接することは止めにしよう。すべてのは、誰の為でもない、ぜんぶ自分の為にやっていることなのだ――と。
この三ヶ月、ずっと出口の見えない悩みに愛子はとらわれていた。四〇歳、結婚して十七年。高校一年生と中学二年生の娘がいる。
「女は愛されて結婚するのが一番幸せよ。だからママはね、愛される女性になって欲しいって、あなたに〝愛子〟って名前をつけたの」と、愛子の母妙子は、いつも口癖のように言っていた。
愛子は、精神的に不安定な母と過ごすことで、自分の心が傷ついている認識のないまま大人になっていった。少女のあどけなさが残る透き通った素顔に、口紅をすうっと一筋ひくだけで、どきっとするほど大人びた表情になる。すらっとした長身で、長いストレートの美しく光る髪。愛子が立ち座りするだけで、風がなくても、そこにどこからともなくふわっと風の動きが感じられる。一見屈託がなく、快活に見える笑顔のなかに、相手に「守ってあげたい、助けてあげたい」と思わせる、一途でけな気なものをひそませていた。
「愛ちゃんは綺麗ね、モデルさんみたい」と、叔父も叔母も、友だちも近所の人も、みんなが言った。そんな褒め言葉を贈られても、気取る様子はなく、人から意地悪をされることも、まして自分が人に意地悪をする思いを持つこともなく、母妙子の望みどおり、誰からも〝愛される女性〟に成長していた。
愛子は短大を卒業して二年目の春、二二歳の若さで結婚した。「女は愛されて結婚するのが一番幸せよ――」母の口癖を、記憶の底にひそませながら、情熱的に、好意を直線的な態度で示す純一郎のプロポーズを受け入れたのだ。純一郎は大手のコンピュータ会社に勤めるサラリーマンだったが、いつか世界に向かって大きく羽ばたきたいという青年の情熱を身体の奥にくすぶらせている男だった。
「結婚して欲しい、僕は君と結婚と同時に独立する。そうなれば安定した収入が得られるかもどうかわからない。でも君を全力で守る! 僕の支えになって欲しい、一緒に暮らそう――」
一緒に暮らそう――最後の言葉が愛子の心をとらえた。〈これであの家から脱出できる〉愛子は咄嗟にそう思った。親元から離れて一人で生活したいと漠然と考えてはいたが、生活費のことや、離婚するのではないかと、いつも不安定な関係にある両親のことを考えると、私が家にいたげなくちゃ、と、犠牲心が働き決断を鈍らせていた。純一郎のプロポーズは、そういう自分の漫然とした迷いに決着をつけてくれるように思えた。
支えになって欲しい――この言葉も愛子をとらえた。〈そうよ、純一郎さんには私がついていてあげなくちゃ。今度はこの人の為に一緒にいてあげよう〉自分が必要とされる場所に〝居場所〟を実感した。
親から逃れたい欲求と、自分が必要とされる安心が重なり合った。でも愛子は、二二歳という若さのなかで「結婚」という二文字を、自分がそれほど望んでいたわけではなかったことの問題に気づいていなかった。
全力で君を守る――守られたい、素直にそう思った。それは、ずっと心の奥底によどんでいるあの記憶から自分を救ってくれそうな期待を抱かせる響きだった。
他人である二人の男女がともに生きてゆく〝結婚〟という意味を冷静に考える間もなく、マリッジブルーのときを、忙しさと約束と期待のなかでやり過ごし、結婚して一年目に長女優子を、三年目に次女孝子を、独立したばかりの夫の仕事を、経理事務という役割で一年手助けをしたあとは、順調に業績を伸ばす青年実業家の若妻、主婦、母として、時間はビデオの早送りのように駆けていった・・・・・・。
こんな感じです。どんな結末になるのか、私は書いていくうちに結末を変えていくタイプではなく、最初から結末を決め込んで書くタイプです。前作『マイ・ゴール』『目標設定練習帳』同様に、この物語の中でも、個人主義といいますか、自分らしさ、自分の幸せを追求することの大切さを表現していきたいな、と考えています。自分の為に・・・それは一見自分勝手に思われがちですが、「自分の為」をとことん追及するところに、「相手の為」があると思うのです。
リチャード拝
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